バレエ音楽研究ノート

音楽家の立場からバレエ音楽を考察してまいります。【稲垣宏樹】指揮者・作曲家/日本指揮者協会会員/2015年度愛知県芸術文化選奨文化賞受賞【個人】/第58・62回文化庁芸術祭優秀賞受賞【団体】/第25・27回名古屋市民芸術祭芸術祭賞受賞【団体】

楽譜への疑問①ープロコフィエフ:バレエ《ロメオとジュリエット》ー『騎士たちの踊り』で2種のバスが混在するのは間違っていると思うのです。

プロコフィエフ:バレエ《ロメオとジュリエット》のスコアを再度勉強中にて、過去にスコアへ記入していたことに加え、新たに発見したことも織り交ぜ、備忘録のように書き綴ってまいります。

私が所有する楽譜は(ミスプリントで悪名高き)Kalmus のフルスコアとピアノスコアですが、出典はソビエト国立音楽出版社 Muzgiz の〈プロコフィエフ全集〉です(現在では全曲のフルスコアをペトルッチ楽譜ライブラリーで簡単に閲覧することができます)。

imslp.org

従って、スコアの校正・修正作業を行った後にパート譜の校正チェックも必須の作業となります。

 

尚、 編成は原曲にあっては下記編成表の通りですが、

【原曲版】3[1.2.pic] 3[1.2.Eh] 3 tsax 3[1.2.cbn]ー6 4[crt.1.2.3] 3 1-timp+4percー2hp pf cel/orgーstr+2mand

原曲を組曲版のスコアに準じ、下記編成表の如く6本のホルンを4本に、2台のハープを1台へと編成を若干縮小する編曲作業も含まれています。

【稲垣版】3[1.2.pic] 3[1.2.Eh] 3 tsax 3[1.2.cbn]ー4 4[crt.1.2.3] 3 1-timp+4percーhp pf cel/orgーstr

 

編成について付記すれば、1938年に《ロメオとジュリエット》の世界初演を行ったチェコ国立ブルノ歌劇場バレエ団が2001年に歌劇場管弦楽団と共に来日し、同演目を上演いたしましたのを私は拝見いたしましたが、ピット内のオーケストラの編成を確認いたしますと、原曲にある6本のホルンは5本に、2台のハープは1台に各々減じられ、オプションのオルガンは含まれず、マンドリンは首席ヴィオラ奏者が楽器を持ち替えて演奏していたと記憶しています。

 

■Act 1 No.2 Romeo:

【改訂】練習番号6番2小節前/練習番号8番5小節目:Fl. = Slur記入(個人的な趣味)

【補筆】練習番号6番1小節前/練習番号8番6小節目:Hp / Vn.I / Vc. / Cb = mf 記入

 

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【誤記?】練習番号8番8小節目~:Pic.=2Fl.?

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■Act 1 No.6 Fight:

【編曲/改訂】練習番号38番10小節目~練習番号40番2小節目:Trb.1-2=4本の Hr. に編成を縮小するのに伴い、Hr.5-6 を Trb.1-2 に分担、強弱記号を ff から f とする。

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Act 1 pp.83

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Act 1 pp.84

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Act 1 pp.85


■Act 1 No.10 The Joung Juliet:

【誤記】練習番号53番3小節前:Vn.II = ミスプリント(D→H)。

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■Act 1 No.11 Arrival of the Guests:

【改訂】練習番号67番1小節前:Fg.1-2=改訂。改訂内容は楽譜への朱書きの通り、4本の Hr. に編成を縮小したことによる Hr.5-6 を Fg.1-2 に割り当て。

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Act 1 pp.124

尚、練習番号167番3~2小節前の Hr.5-6 にある音は Hr.2-3 で担当しており、楽譜の通りで問題は無い。

 

【修正】練習番号68番2小節目/69番3小節前:Btrb. Tba = 2拍目修正。

【修正】練習番号68番1,3,8小節目/69番4,1小節前:Timp = Bass に準じて修正。

※尚、上記パートの修正は No.11 練習番号60番、62番、65番も同様に修正。過去の公演 https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/osaka/detail006754.html でスコア・パート譜共に修正済み

【修正】練習番号69番1小節目:hp = a2 を削除。実際のところ、全曲にわたって2台の hp が別々のパートで書かれているところは全く無く、音量増大のために a2 と書かれているのみである。従って hp は1台のみで演奏可能である。

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f:id:hiroki2415ballet3132conductor52:20200217193328j:plain【欠落】練習番号70番9小節目:Vc. = pizz. 欠落。

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■Act 1 No.12 Masks:

【誤記】練習番号73番4小節目:Cb = 2拍目のアクセントを1拍目に移動。

【誤記】練習番号73番6小節目:Bcl = 2拍目にアクセント記入。

f:id:hiroki2415ballet3132conductor52:20200217191001j:plain■Act 1 No.13 Dance of the Knights:

【改訂】練習番号84番4小節前:Hr.3,4 = 5th, 6th Hr. を削除することに伴う改訂。

f:id:hiroki2415ballet3132conductor52:20200217202056j:plain同様の箇所は練習番号89番3小節目以降にもあるが、6パートのHr. による2~4声の和音の声部配分は同様でありながらも担当するパートは異なっていることが興味深い。従って、原曲を可能な限り生かした修正を行うとすれば 2nd Hr. を修正することとなる。

f:id:hiroki2415ballet3132conductor52:20200217202224j:plain同曲は、第2組曲にあってはHr.は4パートとなり、同箇所は写真のようになっている。

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【誤記】練習番号87番1小節前:Va. =削除(全休符)。

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【修正】練習番号88番1~4小節目:Hr.4, Hr.6 = 3拍目の音をEから短3度上のGに変更。3拍目のバスは本来であれば主和音の第1転回形Gである(2種のバスが混在する筈がない)。

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同曲、プロコフィエフ自身による管弦楽のための【第2組曲 Op.64 bis】でも、ピアノ独奏のための【ロメオとジュリエットからの10の小品 Op.75】でも3拍目のバスはGである。

【第2組曲 Op.64 bis】より

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【ロメオとジュリエットからの10の小品 Op.75】より

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