楽譜への疑問⑨―プロコフィエフ:バレエ《ロメオとジュリエット》―No.30:『民衆の踊り 1』、属和音の様々なバスが混在しているのは何故?
■No29 Juliet at Friar Laurence's:
【Cb.不要な arco】練習番号216番9小節目:Cb. に"arco"の指示が書かれていますが、その前にpizz.が無いことから、この指示の意味は不明です。
パート譜には(arco)と、()付きで記譜。
■No.30 Public Merrymaking:
【Va. "arco"欠落】練習番号222番1小節目:Va. に"arco" の記譜がありません。
【Timp.修正】練習番号225番8小節目:Timpani の G 音をバスに一致させるため完全4度上の C に修正。
【バスは第2転回形?】No.30 Merrymaking では第1幕 No. 4 Morning Dance の『民衆の踊り 1』の主題が調性を変えながら奏されますが、属和音のバスの違いが予てからの疑問でありました。
最初に 提示されます第1幕 No.4 Monrning:では以下のようになっており、①②③の何れも属和音の第2転回形となっています。
①練習番号16番4小節目2拍目:B dur 属和音 第2転回形。
②練習番号17番9小節目2拍目:A dur 属和音 第2転回形。
③練習番号19番31小節目2拍目:B dur 属和音 第2転回形。
さて、問題の No.30 Public Merrymaking:では以下のようになっています。❶はNo.4 と同じく属和音の第2転回形であるものの、❷❸❹は全てバスが混在しています。
❶練習番号225番7小節目2拍目:C dur 属和音 第2転回形。
❷練習番号226番2小節前2拍目:G dur 属和音。3rd Trb,Tba,Hp,Cb=第1転回形 Fis /Timp=基本形 D。
❸練習番号228番7小節目2拍目:G dur 属和音。Hp,Pft,Cb=第1転回形 Fis /3rd Trb,Tba,Timp=第2転回形 A。
❹練習番号229番2小節前:D dur 属和音。Tba,Cb=第1転回形 Cis /Hp,Pft=第2転回形 E /Timp=基本形 A。
No.4 のバスが属和音の第2転回形に統一しているのに対して、No.30 は❷❸❹でバスが混在しています。仮にTimp.のみが違うのであればチューニングの機能が追いついていないことを鑑みた妥協であると考えられますが、そのような問題が生じない楽器までも含めて、これほどまでに何種類ものバスが混在しているのは何故なのでしょう?
ピアノスコアで❷❸❹は全て属和音の第1転回形となっています。
属和音にあって上声に導音が含まれているのにも関わらず、❷❸❹の如くバスが第1転回形の導音となることには抵抗があります。
❷❸❹の対処方法として考えられるのは次の3通りの方法です。
(a)無批判に楽譜に書かれてあることをそのまま受け入れ、修正を全く行わない。
(b)ピアノスコアの如くバスを第1転回形に修正する(Timpを除く)。
(c)No.4 に準じてバスを第2転回形に修正する(Timpも含む)。
私は原理主義の方々からの批判を受けることを覚悟の上で (c) の方法、即ち No.4 に準じてバスを第2転回形に修正することを選択し、パート譜もそのように修正することといたしました。